続・受託開発の罠

受託開発の罠
http://www.marenijr.net/mymy/solution/008.html

を書いたのは実は5年前です。読み直すと誤字が多いのと、意味不明な形容詞が難ですが。
で、なんとなく検索して、リンクを探してたら、

網助っ人 芥川武日記
http://blog.netsket.com/acty/2007/04/post_9.php
でリンクされていました。ここの芥川さん Netsket という会社の社長さんです。
http://www.netsket.com/

この会社の最近の売り(?)は「マッハ開発」だそうです。
詳しくは会社のページを見てほしいのですが、所謂、WEBサービスを1週間でリリースしますという商売/スタイルです。普通の開発では考えられない(こともない?)わけですが、これがこの会社の強み&差別化です。

強み/差別化の話は起業塾でもとくテーマになります。ソフトウェア業界の場合、製品開発よりも受託開発(システム一品もの)が圧倒的に多いので、どこの会社に発注するのか、どこの会社/人と継続的に繋がりを持つのか(営業の削減、取引コストの削減)が、請け負う会社/人にとっては生命線になります。最悪(でもないけど)会社の場合は営業収入的にじり貧になって畳む、ということになります(当然、最悪の場合は借金ね)。

そう、マッハ開発っぽいことの発想は、WEB開発は当然で、案を出されてから2週間でリリースというのが理想的だそうです。平均的なWEB開発が2か月以内だそうですから、相当の早期リリースを求められているわけですね。

「素早く対応しないといけない日進月歩の業界ですね」

な~んてことは私は言いません。
反感を買うであろうことを敢えて言えば(書いておけば)、

「先見の目がない学習しない業界ですね」

ってことです。所謂、単純な短納期はイコール無計画ゆえの短納期を自己言及しています。
これを流れで示せば、

1.あ~、最近うちの会社のページがパッとしないんだよね。何か集客はあるかな?
2.そういえば、○○ってのが流行っているみたいですね。
3.そうそう、○○ってのは、あの会社もやり始めたしネットでも話題だし。
4.なるほど、じゃあ○○を活用してうちの会社の××と組み合わせれば。
5.それ、いいじゃないですか!
6.でも、見積もりとか期間とかあれだから、そうするとブームが去っちゃいますよね。
7.いや、大丈夫、あそこの会社のスピード開発に頼めば!
8.そうか、じゃあ、お願いします!

ってな具合なのかな~、と妄想していします。そう妄想ですからね、妄想!

というわけで、極端な短納期は差別化の一種ではあるのですが、懸念するのは(いえ、別にネット助っ人という会社を批判している訳ではなく、一般的な市場を話をしています)、そういうコンビニみたいな100円均一みたいな作り方/会社/人生がしたいのか?ってことです。

5年前、受託開発の罠を書いたときに「ソフトウェア業界=ゼネコン」と気づいた時から、建設業界の比較を考えてきました(ずっとではないけど)。5年前から比べると、株価は暴落したし、不況は更にひどくなっているし、ソフトウェア開発者の単価は下がりっぱなしだし、当時そこまでは予想していなかったけど「罠」に嵌ると抜け出せない会社が多々ありそうな雰囲気です。

先の話を書いたときには、顧客>SIer>下請のヒエラルキーから抜け出す方法は、このシステムから抜け出す方法以外にない、とは分かっていました。ですが、具体的に何をすれば抜け出せるのかはよく分かりませんでした。

という訳で、前置きが長くなりましたが、久々の続編ということで、具体的な解決策をいくつか書いておきます。

■製品を作る

第一に思いつくことが、顧客に直結するために製品を作ることです。これは「顧客>SIer>下請」の SIer の項を抜き去り「顧客>自社」とするシステムを確立します(SIerになるのではない!ので注意)。

他業種で言えば、小売業、タクシー、ホテルなどのサービス業種です。顧客(お金を払う人)と直結して取引を行い自社のアイデア/製品を提供し続けます。
小売を目指すのであれば、シェアウェアの提供、iPhoneなどのアプリが思いつきますが、会社として経営するのは難しい面があります(秀丸は例外でしょう)。現状、小売業のように一般人を相手する場合、MS-Officeやウィルス対策ソフトのようなパッケージが一般的です。これらのパッケージソフトは大手の会社が配布している場合が多いので、小さな会社は手がだし辛いでしょう。だいたいパッケージソフト=製品とは言え、自社のみで作ることは少なく、先のSIerが製品のアイデア/提案をし、下請けが作るという仕組みが確立されているので、自社がSIerになるしかない、というジレンマがあります。

ですので、ホテルのようなサービス業種を真似し、顧客を特定の分野に絞っていきます。たとえば、商店街の店であったり、小規模の工場であったり、小規模の官庁であったりします。
この場合、それぞれの顧客について受けいられる予算は小さいものですから、受託開発で行うような一品ものの製品を作っては割が合いません。ひとつの製品を複数の顧客(多数ではないが1つではない)に売るなり、ひとつの製品を自社で手軽に/手早くカスタマイズして顧客に提供する、という方針になります。

手軽に/手早くというのが、会社の暗黙知/資産になります。ノウハウとも言いますね。どちらかと言えば、このノウハウは人あるいはチームに属すると良い面があります。

このあたり、具体例を出せば、

・自社のフレームワークを使うと、開発が効率化できる。
・自社のフレームワークを使うと、超短納期でできる。
・コア技術を持ち、それに派生した製品を作成する。
・コア技術を持ち、それと顧客を組み合わせた製品を作成する。
・自社のチームを使うと、一定分野に特化した開発ができる。

一見、受託開発でも成り立つ論理に見えますが、営業を行わない(こともないけど)受託開発の場合には開発の効率化/短納期がイコール受注額の減少になり、逆効果になります。
当たり前ですが、中間に位置するSIerの取り分を多くするためには、2つの方法がありますが、下請けへの発注額を減らすほうが楽なのです。幸いにして(?)受託専門の会社はたくさんありますので、この不況下金額を下げる価格競争が「競争」になってしまい、下請け/自社の取り分は減ってしまい、単なる生き残り合戦になってしまいます。
しかし、顧客と直結した場合、受注額を減らしたとしても、それ以上の効率化を行う(あるいは売り手として受注額を計算する)ことにより、経験/学習/努力の成果は時間が余るという効果を出し、先行きへの学習/製品作りの時間を取ることが可能になります。
そういう会社/人の成長過程を踏むためにも、顧客>自社の直結が必要であり、なんらかの「製品」を持つことがソフトウェア業界でも必須になります。

■取引コストを下げる

取引コストというのは「何故コンビニで98円のジュースを買わず、コンビニの前にある自動販売機で120円のジュースを買うのか」という話になります。
人が何かモノを買うときには、無意識にいくつかのコストを試算しています。

・ひとつはモノの価格としてのコスト
・ひとつは差別化/付加価値としてのコスト
・ひとつは物珍しさ/驚きとしてのコスト
・ひとつは買うときに交渉する取引コスト

などです。正確には5つあるはずなのですが、ここでは4番目の交渉/取引コストを問題にします。取引コストは企業では営業職の人です。端的に言えば、モノを好きな時に定価で買う、好きな時に定価で売る、ことができれば営業という職種はいりません。残念ながら(?)現在の社会では需要と供給がイコールになることはまれで、そこには競争が発生します。ひとつは価格競争なのですが、もうひとつはコミュニケーションとしての競争があります。これが「営業」です。
さて、営業の厳密な定義はさておき、この営業コスト=取引コストは、価格を交渉したり、レジにジュースを持って行ったり、相手の予定を窺ったり/伺ったり、顔つなぎをしたり、という役目に発生します。だから、コンビニに入って冷蔵庫からジュースを取り出してレジに持っていくのが「うっとおしい」と感じたとき、人はコンビニの前の自動販売機でジュースを買います。
このあたり、生物経済学(だっけ?)に詳しく載っています。

というわけで、人はモノを買うときコストに関しては一見理不尽な行動を取ります。
先の「うっとおしい」という感情は、社会的に問題を抱えつつも、人数が多すぎる日本社会の一面を表しています。

これは、会社間の交渉にも言えます。
常に営業を介して、価格交渉をし続けるよりも、ある程度の幅を持った金額のやり取りを続けるだけで十分な時があります。これが、会社間の継続的な関係です。
継続的な関係は、顧客と自社だけでなく、自社とグループ会社の間でも発生します。昨今のグループ会社を作る動きは、外側への営業を一本化して、自社のあふれた分をグループ会社に廻す、同様にグループ会社のあふれた分を自社に廻して貰うという関係が前提になっています。ここでも「営業」特有の取引を減らす努力をなされています(営業機会を増やす努力でもありますが)。

この会社間の関係を長く続けると、グループ内での営業金額のやり取りは差し引きゼロになります。つまり、トータルで見て営業的なやり取りが不要ということです。つまり、取引コストがゼロになるということです。
こうなると不思議なことに、グループ内でのやり取りはあたかも定価を通じて行っているように見えます。つまり、好きなときに定価で売る、好きなときに定価で買うという状態です。

そう、ヤクルトを社内に置いたり、薬箱を家庭に置いたりするような状態と同じものが作れます。

Amazon を始めとするインターネットでの小売の増加は、当初この取引コストを減らす動きでした。しかし、インターネット自体が普及するに従って(あるいは Amazon が販路を拡大する路線に従って)、インターネットでの製品も価格コストが下げる傾向にあります。
しかし、本来ならば家で買える便利さ/品物の豊富さを見れば、さほど価格を下げる必要はないと思われます。これは(顧客にとって)不要なものを売るという、販売過剰の状態になっていることを示しています。

■システム/サイクルを新しく作る

さて、先の「顧客>SIer>下請け」を脱却するためには、このシステムから脱却することが一番です、と言いました。「顧客>自社」の体制にしてしまえばいい訳で、そうなると別のシステム/サイクルを作るのが一番です。

注意しておきますが、ここから話すことは話し半分に聞いてください。試行中ですから。

株式会社の場合、会社法的に「株主」が会社を所有します。ですから、会社の所有物/付属物である従業員は株主に所有されているわけです。となれば、従業員が会社を支えるときに、配当を利益の一部から出し、他は役員報酬として分配し、従業員が最低限働くだけの賃金を渡せば、それが会社は成り立ちます。法的には。
この負のスパイラルが多くの現不況下で続いている訳で、従業員である限り、この見えない「株主」という存在から抜け出せません。あるいは、会社への金銭的な投資という束縛から抜けられません。
当然、日本の場合、家族経営型の会社が多かったので、この株主の存在だけでなく、チーム/グループとしての従業員を考えた理念を掲げることが多いのですが、会社自体にこの理念を貫く理由が失われつつあります。
となれば、会社法に従う、株主/役員のための会社が社会生物学的に残ります。

こうなると、下請けであっても役員であれば、従業員よりも多くの報酬を得ます。当然「SIer>下請け」の関係同様に「役員>従業員」の関係が成り立ちます。すると、搾取とまではいいませんが実際、モノを作るのは従業員でありつつ、賃金は安くというスパイラルに入ります。

これを脱する方法があるのか?と言われれば、私は「ない」ような気がします。(あまり信頼できませんが)金持ち父さんシリーズのロバート・キヨサキもそう言います(こちらは別途問題ありですが)。
生きる場を変えるということで「E」の場所に身を置くように努力するのもひとつの方法ですが、残念ながら彼の云うマトリクスはゼロサムゲームでしかありません。

なので、この場合は「株主」を廃してしまうのが適当と思われます。
一時期盛んに行われた株式の上場取りやめ、非上場化がその動きです。最近では株価の安定のためか(?)あまり記事になりませんが。
本来は資金を得るために株式を上場するはずだったのが、株式上場を果たして役員が報酬を得る(手持ちの株価を上げる)という形にスライドしています。つまり、本来は広く資金を集めるために株式を上場し、その資金を元に研究開発/雇用者の増大を図ったわけですが、最近は上場した株の多くを役員が持ちストックオプションとして売り、家や車を買うという「報酬」になっています。ここが間違いなのです。

こうなると、システムを変える(あるいはシステムを戻す)方法として対策が思い浮かびます。

・手持ちの資金で製品開発ができる範囲に絞る。
・非公開株で資金を集め、優秀な従業員を手元に集める(チームを作る)。
・取引コストの低い相手のみ、取引対象とする。
・過剰な資金を求めず、欲しい資金を明確にし、資金源を得る。
ここまで書きましたが、まだ整理がついていません。
続きや整理は久しぶりに MyMy-MyCompany でしようと思います。
http://www.marenijr.net/mymy/

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