実地な値を使って検証するのは避けていたのだけど、現在の状況を見て解説することにします。
隠れ感染者が一定量いる
現在、東京都の新規患者が100人/日を超えています。指数関数的増加(差分が1.0以上となるので複利的に増加する)が理解できていれば、次の増加が100人ではなく、それ以上にとなることは容易に推測ができます。
ただし、単純に「指数関数的増加」とはいえ、いったいどのくらいの増加数なのか?を予測しておくことは大切なことです。
新型コロナウィルスの厄介な点は、
- 感染率がインフルエンザと同程度に低い(麻疹などよりもかなり低い)
- 潜伏期間が2週間と長い
- 感染しても無症状な人が一定量(8割程度)いるらしい
ところです。このため、麻疹のように一気に拡散&重症化する場合は、発病後すぐに家や病院にこもるために、あまり外側に拡散されることがないとありません。潜伏期間が長いと、いつ罹患したのかがやっかいです。クラスター対策班がクラスターの追跡ができなくなってきているのはこのためです。同時に、感染しても無症状であれば、感染したまま普通の生活を送ることになります。無症状であるために、病院に行くこともなく家で休むこともなく PCR 検査や検体検査を受けることしません。このため、本人の意図とは関係なく、ウィルスが蔓延してしまいます。
進化論的に言えば、これが新型コロナウィルスの「生存戦略」ということになります。
隠れ感染者を推測する
潜伏期間中であったり無症状な感染者を「隠れ感染者」と呼びましょう。この「隠れ感染者」は数値の上ではでてきません。毎日、定期的に発表される新規感染者とは別に扱う必要があります。
では、どうやって「隠れ感染者」を推測するのでしょうか?
感染の因果関係として、
- 新規感染者が発生する
- 新規感染者は潜伏期間(2週間)前に何処かで感染している
- 新規感染者を感染させた元の感染者がいる
ことが条件になります。実際は海外から帰国した感染者もいるので誤差でるのですが、おおまかな東京都の感染者の状況はこの感染の因果関係にあてはめられます。
これを SIR モデルに当てはめてみます。
新規感染者 dIt/dt を発症した日(14日前)に「隠れ新規感染者」として設定します。
隠れ新規を累積して、隠れ累積患者数を計算します。このとき、その日の新規患者を取り除きます。これは新規患者としてカウントして隔離されるためです。
隠れ累計と隠れ新規の関係から、感染率が計算できます。感染率 β は、もとの SIR モデルの感染率や基本再生産数とは異なる定義となるため、このモデル独自のものです。もう少し式変形をして、基本再生産数と比較できるようにしていきます。
既に新規感染者が計測されている日から14日さかのぼったところの感染率βが算出できます。
これをもとにして、予測感染率β*を推測します。
一般に、何らかの環境の操作(外出の自粛など)が行われない限り、予測感染率は前日の感染率を踏襲するはずです。
この予測感染率 β* から、予測隠れ新規患者数を計算します。
予測隠れ新規の数は、14日後に予測新規患者数となり、新規の感染者数が予測できるというモデルです。
Excel で予測する
これを Excel 使って計算してみましょう。
東京都 新型コロナウイルス陽性患者発表詳細 – 東京都_新型コロナウイルス陽性患者発表詳細 – 東京都オープンデータカタログサイト
4/6 付けの東京都の患者データを使って予測してみます。
青いセルが予測の部分です。「患者累積」と「隠れ累積」が大きくずれているのは、新規患者をうまく拾えていないのと、発症までの潜伏期間が2週間と長いために潜在的な患者が滞留してしまっているのが理由です。
単純計算いけば、新規患者数100人×14日間 = 1400人以上は滞留していることになります。
2週間ほどさかのぼって、感染率の予測値を入れます
- 0.160 は、3/22 までの大まかな平均値です。4/6 付けで新規患者数が83人と若干減っているので実効感染率が一時的に下がっていますが、いまのところ外れ値として処理しています。継続して下がっていれば、この感染率をさげます。
- 4/4 からの 0.080 は土日で自粛が効果的に行われたとみなして下げてあります。
感染率の絶対値は、特に意味はありません。いずれ実効再生産数のような割り出しが必要になります。
ここでは、相対的な値となっています。
それぞれの値をプロットしたの下の図です。
予測患者数累積が非常にあがっていることが分かります。
対数軸にプロットしたとき、患者累積と隠れ累積の差が大きくならないように注意が必要です。
現時点でプロットしてみたところ
- 4/11 頃に患者数の累積が2,000人を超える
- 新規患者は500人のピークがある
- 4/4 の自粛は、4/18 頃に効果が現れるので、それまでは同じペースで自粛が必要となる
- 増え方は急ではあるが、きちんと自粛をすれば、患者数が1万人を超えるのは4月末以降の予想となる
問題は、新規患者数が500人/日程度発生するが、医療崩壊を起さずにこれを受け入れらるか?ということです。
このモデルで計算したときには、「隠れ累積患者数」が4,000人程度いることと2週間遅れで発病することをあわせると、かなり厳しい状態と言えます。ただし、軽症/重症者が混在するので、この比率が問題になります。
データ
Excel データは以下でダウンロードが可能です。